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余白
「夏服で溢れているのです、わたしの部屋は。引き出しと、ドアにかけたまま。押し入れのケースはすかすかなのだけど、
頭の上にあって、しまうのがちょっと億劫。手を伸ばせば簡単にぱかっと開いてしまうふすま。だから、クローゼットには
まだ夏に着なかったワンピースがある。着るはずだったのだけど、何だか勿体なくて、秋服にもなりきれず、6時。
ここはまだ涼しくて、日差しを逃れた風が窓の隙間から流れ込んでくる。この時間を信じてはいけない。草原に横たわって
青空を仰ぎたかったような気持ちは一瞬で汗になり、あとで後悔に変わる。30分もすれば熱が伝わって気温はあがるだろう。
気温があがればもうそろそろ夏が終わるだなんて言ってられなくて、それはすでに夏そのもの。目を細めずには決して歩け
ない。光を浴びれば頭の先から溶け始めて、地面に向かって真っ逆さまに落ちてしまう。ということもないのだけど、
窓を閉めてしまえばこの部屋はちょっとだけ時間を遅らせることができるのです。ガラス一枚隔てたほんの少しだけの余暇。
まだあの空気には触れたくない。」 『余白』冒頭、午前6時より
午前6時から午後6時までのそれぞれの朝に、目覚め、どこかへ向かう女たちの一日。
独白形式で、言葉と行動のずれを描く。
illust のえ
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